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『奄美大島の口承説話』

―川畑豊忠翁、二十三夜の語り―
田畑千秋 著

奄美大島・大和村名音集落に生まれ育った川畑豊忠氏の語りを主軸に「一人格がどれほどの民族知識を有しているか」を追及した『奄美の暮らしと儀礼』(第一書房、一九九二年)に続き、著者が、同じく川畑氏による二〇一話に及ぶ口承説話を集成した著作。一九八八年以来の採訪の場で、川畑氏の豊かな語りの総体をいかに提示するか思案し続けてきた著者は、奄美で二十三夜(御月待ち)の夜などに語られる説話の特性と、語り手自身による「無意識の分類」のあり方とを尊重し、「怪奇譚・行事譚・ケィンムン譚・伝説・昔話・笑話」と類話ごとに話を提示する形式を選んだ。本書に収録された話はカタカナ表記による奄美の言葉で記載され、すべて共通語の意訳文と、巻末には二三頁に及ぶ「方言語彙索引」が付されている。語り手と同じく奄美のひとであり、長年「奄美民話の会」を牽引してきた著者にしてはじめて可能となった内容であり、声と文字との関わりについて、ことば少なく示された渾身の提言でもある。

(第一書房/本体三〇〇〇円)

2007/1/22 掲載 : 鈴木寛之